秘技マサル会議と犬

ヤマモトマサルが、デザイン、カメラ、写真、自費出版の写真集のことから雑記までいろいろ書きます。

写真集製作クロニクルVol.4 -自費出版の写真集でこだわった4つのポイント- 後編

ファースト写真集「NO MATTER ×UK」写真集の続き記事。ページ部分の用紙についてと、巻末についている特典のポストカードの制作について書きます。

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最高級紙の王様「ヴァンヌーボ」を使用したページ部分

写真集ページ部分の紙を選ぶのは、一番苦労する部分かも知れません。選ぶ用紙によって、色表現、質感、階調の表現、なによりもお値段がまったく違うからです。

ORIGINAL PhotoBook今回の作品は、すべて光あふれる柔らかいトーンの写真ですので、マット系の紙を使うことに迷いはありませんでした。しかし無光沢のマットになればなるほど、彩度が低く濁り、黒がグレーっぽく浮いてしまいがちです。グロス感や光沢がある紙ほど、黒はグッと引き締まります。無光沢のマット感と色の引き締まりの両方を表現できる紙は、あまりないと思います。

 

問題はどのマット用紙を使うか。最後まで悩んだのは「ヴァンヌーボVスノーホワイト」と「アラベールスノーホワイト」と「ハイマッキンレーディープマット・スノー」。

結局すべての点で能力の高いヴァンヌーボVスノーホワイト*1を選択。一番安いマット紙と比べたら、お値段は倍以上違うと思います。  

ORIGINAL PhotoBookマット系の紙では苦手としている、彩度の明るい水色や、真ん中の少年の黒いズボンや建物の影の黒い部分など、潰れること無く鮮明に再現されています。さすが高級紙の王様ヴァンヌーボ。

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ヴァンヌーボの用紙は、表面がツルツルではなくてアート用紙のような凹凸になっています。それが被写体の質感をより深く演出してくれます。とくに犬の毛の起毛表現や、鉄パイプの汚れの表現、石畳のゴツゴツした表現など。ぜひ本紙を手にとって見て欲しいです*2

まるで画用紙のようなテクスチャー感。しかし画用紙だと繊維の目が粗いため、きめ細かい部分までは印刷できません。その点ヴァンヌーボは、きめ細かい部分まで印刷できるから驚きです。まさにオールマイティーの優れた用紙といえます*3。 

 

こだわったポイント3
ページを増やせば予算が万単位で増えていくので、限られたページ数の中で、45点の写真をレイアウトをする必要があった。*4

見開きページの隣り合わせの写真の距離、白フチの有り無し、めくったページのリズム感、全体のストーリー性など、無駄なページは1枚もない。とにかく窮屈に見えないように、細心の注意を払ってレイアウトした。とりわけ余白のスペース部分には気を使った。

 

 

 

紙質を比べることができる特典用ポストカード

印刷の途中で追加した巻きカバー。裏表紙の折り返した部分にポストカードサイズがピッタリ入るスペースがあることに気が付きました。そこで急きょオリジナルポストカードを作ることに

ORIGINAL PhotoBook

紙は選定からあぶれた「ハイマッキンレーディープマット・スノー」をチョイス。ページに掲載している写真を流用したので、ヴァンヌーボとの仕上がりの違いがよくわかります。

実はこのポストカードの色味の方が、個展で展示したオリジナルプリントの色表現にもっとも近かったという衝撃的な結果に。

とはいえ並べて比べてみると、彩度の色味の表現領域や、用紙の表面の凸凹したテクスチャー感、黒の締まりなど、ヴァンヌーボの方が圧倒的に格が上です。

写真集には草原の羊の写真以外に、ロンドンの街中の写真や、お店の食器の写真、お菓子屋さんのショーウィンドウの写真などがあり、ヴァンヌーボの豊かな表現力が必要だったと思います。*5

 

こだわったポイント4

ビニールケースにいれたポストカードを 裏表紙に貼り付けるためのテープ選び。ポストカードを使った後に、ビニールケースだけがくっついていては格好悪い。そこで簡単に剥がれて、汚れがつかないテープを探した。いくつか検証してみて一番理想的だったのがこちらのテープ↓ 

 

 

個人で作った本格的な写真集のゴールかもしれない

簡単ではありましたが、普段は語ることのない制作者ならではのマニアックな仕様について書きました。このページを読んでいる方は、個人で写真集を作ろうと思っている方かも知れません。

自費出版で湯水のごとく予算を使える人はそう多くありません。この写真集は、個人レベルで販売まで考えて制作された写真集のゴールのひとつと言えると思います*6

ぜひ実物を手にして、クオリティをご覧になってください。書店で売っている写真集と比べて遜色ないです。*7

いつしか予算を度外視した写真集を作ってみたいものです。

 

 

 

関連記事

*1:同じヴァンヌーボでもVシリーズとVGシリーズがある。Gはグロスが強めでインクが濃くのっている部分はギラギラしてコッテリ感がさらに増す。今回は向いてないのでさらりとしたVシリーズに決定

*2:ヴァンヌーボの印刷見本として数冊いかがでしょうか。さぁどうぞ!→オンラインショップへGO!

*3:これは油性インクのオフセット印刷の場合での話。過去にオンデマンド印刷でヴァンヌーボを使ったら、その特徴的な凸凹の表面のせいで薄いトーン部分がかすれてとても汚い印刷になってしまった。

*4:すでに制作前からポッドキャスト番組などで写真の掲載点数を公表していたので、あとから変えるわけにはいかなかったのだ。

*5:といいつつも、ハイマッキンレーの紙質も好きなので、もし、増刷できることになったら、全ページハイマッキンレーで刷りたいと思う。ヴァンヌーボよりも紙は安いので、定価そのものを下げて発売したい。

*6:写真集が購入してもらえる値段は最高でも3,000円までと勝手に想定した。プロの写真集でも普通は1,800円とか2,000円を下回るイメージ。将来もっと印刷技術が進化すれば、低予算で高品質な写真集を作れる日がくるかも知れない。

*7:使用している用紙や印刷線数でいうと、一般的な仕様の写真集より、こちらの仕様の方が断然高画質です。